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蝶の舌

夜はひさしぶりにトンカツを揚げる。
こんな手の込んだ料理をつくるのも久しぶりである。
「時計をみながら」の暮らしではトンカツも作る気にならないのである。
ご飯を食べてから、ワインをのみながら『蝶の舌』を見る。
1936年のスペインを舞台にした映画である。
共和制が瓦解し、フランコ将軍たちによる軍事クーデタで内戦が始まる直前の不安な時代の地方都市の一年を子どもの眼から描いた映画である。
敬愛する先生が共和派の活動家として王党派のクーデタ勢力に逮捕されてトラックで連れ去られるのを見送る主人公のモンチョ少年が、自己保身のために「アテオ(無神論者)!赤!人殺し!盗人!」と叫ぶのに唱和する場面のストップモーションが痛切で美しい。
ヨーロッパ映画って、こういうところがほんとうに残酷なまでにリアルである。
ヨーロッパ映画は「子どもの純真」や「小市民の善意」を決して簡単には許さない。
子どもは無垢なほど邪悪であり、小市民は平気で人を殺す。
日常生活の中のファシズムという同じテーマを扱った映画はフランスにもイタリアにもある。
けれども、『リュシアンの青春』も『アマルコルド』も『蝶の舌』よりは明るい。
それはフランスでもイタリアでも、その映画の舞台になった時代の数年後には戦争が終わり、自由が戻ってくるからだ。
スペインはこのあと1975年にフランコが死ぬまで強権的な独裁体制が40年間続く。
だから先生は死ぬまで名誉回復することがないし、モンチョ少年にも自分の少年の日の忘恩のふるまいを謝罪するチャンスは決して訪れなかったはずなのである。
その時間の長さが重い。

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2005年7月22日 11:29に投稿されたエントリーのページです。

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