『英雄』(2002, by Zhang Yimou: Let Li, Tony Leung, Maggie Cheung, Zhang Ziyi, Donnie Yen)
☆☆☆☆
映画全体を貫くモチーフは「重力からの解放」。
この映画では「ものが下に落ちる」ということがほとんど強迫的に回避されている。
矢にしても、いくら強弓で引いたって、あれだけの距離だ、どこかで下に向いて落下を始めるはずなのに、ぐいぐい上昇して、そのあとは水平方向に飛んできて、目的地に達しても、しつこく人間や壁に刺さったりして、最後まで地面に落下することを拒んでいる。
ワイヤーワークの剣戟シーンももちろんそうだ。
ドニー・イェンとリー・リンチェイの雨の中の剣劇の場面、マギー・チャンとチャン・ツイイーが枯葉の中でくるくるまわる場面、トニー・レオンとリー・リンチェイが湖の上で飛ぶ場面、どれでも彼らはなんだか「地面に足がつくと負け」のゲームをしているように見える。
あるいは現代中国には「空中に飛び上がって、降りてこない」という図像に何かはげしい固着を感じる歴史的・文化的な理由があるのかもしれない。
「右肩上がりの経済成長」の象徴かもしれないし、「文化大革命の後遺症」かもしれない。