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小津安二郎の芸術

行きの地下鉄で佐藤忠男『小津安二郎の芸術』を読む。

年末に小津安二郎全作品DVDが届いたので、映画をみては、いろいろな人の書いた小津論の本をひもといている。
この名著を読むのは二度目。最初は石川くんに薦められて二十代の終わり頃に読んだのだから、もう大昔のことである。
佐藤の描く小津の肖像もたいへん魅力的であるが、その中にすてきな言葉があった。
昭和33年、『彼岸花』の撮影中に、小津、岩崎昶、飯田心美の鼎談が『キネマ旬報』で行われた。そのときの小津の言葉。
独特のカメラワークについて論じた中で、小津は「絶対にパンしない」と言ったあとにこう続けている。

「性に合わないんだ。ぼくの生活条件として、なんでもないことは流行に従う。重大なことは道徳に従う。芸術のことは自分に従うから、どうにもきらいなものはどうにもならないんだ。だから、これは不自然だということは百も承知で、しかもぼくは嫌いなんだ。そういうことはあるでしょう。嫌いなんだが、理屈にあわない。理屈にあわないんだが、嫌いだからやらない。こういう所からぼくの個性が出てくるので、ゆるがせにはできない。理屈にあわなくともぼくはそれをやる。」

「いやなものはいやだ」と言って芸術院会員への推薦を断ったのは私の敬愛する内田百間先生である。
その百間先生は文部省からの博士号を「いらないものはいらない」と断った師たる漱石の事績にならったのである。

というわけで「今週の名言」は天才小津安二郎の
なんでもないことは流行に従う。重大なことは道徳に従う。芸術のことは自分に従う。
に決定。

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2004年3月14日 10:40に投稿されたエントリーのページです。

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