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ハウルの動く城

☆☆☆☆☆
by 宮崎駿 声の出演:倍賞千恵子・木村拓哉・美輪明宏・我集院達也

『ハウルの動く城』を見に行く。
映画館の前にゆくと長蛇の列である。
げ、まだそんなに客が入るのかよと驚いていたら、それは『Tokyo Tower』の方の列であった。「『東京タワー』ってどんな映画なの?」と聴くと「黒木瞳と岡田准一が年の差なんか超えた愛を貫く話」であるという回答が得られた。『さよならをもう一度』みたいな映画なのかな(なんて言っても誰も知らんか。年上の人イングリット・バーグマンがアンソニー・パーキンス青年に許されぬ恋心を抱くのを、訳知りおじさんイブ・モンタンが苦悩しつつ受け容れるというハートエイキングな名画である)。
しかし、黒木瞳と岡田准一のまんまTVで見られそうな恋愛ドラマを見るために平日の昼間から若い女性およびあまり若くない女性が長蛇の列をなしているというのはどう理解すればよろしいのであろうか。
私にはよくわからないし、ぜひとも考究したいという意欲もわかないので軽くスルー。
さいわい『ハウルの動く城』は五分の入り。「子連れの母」たちが多い。
子供がわいわい騒いでいる映画館で映画を見るというのも久しぶりである。
私はこれから劇場で見る予定の映画については一切映画評というものを見ないことにしているので、どういうストーリーでどういうねらいでどういう俳優が出ているというようなことは何も知らない。
だから、最初にソフィーの声を聴いたときに、「どこかで聴いたことのある声だなあ…」と考えて「あ、さくらの声だ」と気がつくまで10分くらいかかり、ハウルの声を聴いてから「どこかで…」(以下同文)、カルシファーの声を聴いて「どこかで…」でこれは最後のクレジットを見るまでわからなかった(『鮫肌男』の我集院達也=若人あきらさんでした)。
ストーリーも「若い女の子が呪いをかけられておばあさんになる」ということしか知らなかった。
何も知らないで見る映画は実に愉しい。
わくわくどきどきの二時間でした。
宮崎駿はそれにしてもほんとうに「産業革命直後のオーストリアあたり」の風景が好きなんだ。
前世では19世紀のウィーンでパン屋でもやっていたのではないか。
そんな気がするほどに、細部にリアリティがある。
家具や壁や床の「質感」や「温度」や「凹凸」まで画面を見ていると感じ取れる。
そんなアニメ作れる?ふつう。
第二帝政期の装飾のある部屋の温度や湿度や匂いや家具の手触りなんて、「そこ」にいたことのある人間にしかわからないと思う。
すごいよな。それだけでも他の追随を許さないと私は思う。
それに宮崎自身もいちばん見て欲しいのは、そういう細部の「書き込み」だと思う。
黒澤明は『赤ひげ』のセットで、小石川療養所の赤ひげの診療室の薬草棚の全部にほんものの薬草を詰めたそうである。
もちろん画面には映らない。薬草を取り出すシーンなんてないんだから。
でも、映画を見るとたしかにそれは薬草がぎっしり詰まっている棚のように見える。
重みや匂いが「わかる」のだ。
それと同じような「厚み」が宮崎駿のアニメにはある。
たぶんあの「動く城」についても宮崎は精密な「図面」を書いていて、どこに何があって、どういう「隠し階段」や「隠し部屋」があるか、どの棚にはどんなお皿が入っているか、どの箪笥にはどんなリネンが入っているかまでぜんぶきっちり書き込んだはずである。
もちろん、そんなものは画面には映らない。
でも、見る人には「わかる」。
子供だって(むしろ子供の方こそ)そういうところをちゃんと見ている。
だから、「ジブリのアニメはすごい。ほかと全然違う」ということがわかるのだ。

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2005年2月 3日 13:31に投稿されたエントリーのページです。

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