Eternal Sunshine of the Spotless Mind, directed by Michel Gondry : screenplay by Charlie Kaufmann : Jim Carrey, Kate Winslet, Kirsten Dunst, Elijah Wood
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日本人は年末になると『忠臣蔵』映画が見たくなります。同じようにアメリカのみなさんは年に一度『クリスマス・キャロル』映画が見たくなる。これは私が最近発見した「ハリウッド映画の隠された法則」の一つです。
『クリスマス・キャロル』というのはご存じディケンズの小説で、強欲な金貸しのスクルージ爺さんがクリスマスの夜に夢の中で彼自身の人生の過去、現在、未来のヴィジョンを見て、おのれ生き方の間違いを知り、目覚めるとすっかりよい人になりました…というお話です。おのれの人生を凝縮した時間のうちに幻視することによって「回心」を経験する、という話型はどうやらアングロ・サクソンの方々の琴線に触れるもののようです。
この『エターナル・サンシャイン』も「クリスマス・キャロルもの」に分類してよろしいと思います。主人公の青年ジム・キャリー(たいへんまじめに演じています。走るときだけ「ジム・キャリー」が出ますけど、それくらいは許してあげないとね)と恋人(ケイト・ウィンスレット)が喧嘩のあとに、それぞれ「記憶を消す」サービスを受けて、相手のことを忘れてしまう。そして二人とも相手が自分のかつての恋人であることを忘れたままに出会ってしまう…というわくわくする設定です。
で、どこが「クリスマス・キャロル」かと言いますと、記憶を消去する手術のさなかにジム・キャリーくんが自分の記憶の中に分け入って過去を「もう一度リアルに生きる」という経験をするところです。そうすると、過ぎ去ってしまって、もうその意味が確定したはずの過去の出来事が「別の意味」をもって甦ってくる。
人間て不思議なもので、確定したはずの過去に「別の解釈可能性」があり、そのとき「別の選択肢を取った場合の私」というものがありえたと思うと、なぜか他人に優しくなって、生きる勇気がわいてくるんです。
これは本当。若い人も長く生きてればわかるようになります。
さて、ジムくんとケイトくんは再び恋に落ちるのでしょうか。それとも別の人生を選ぶのでしょうか?
答えはもうおわかりですね。
『クリスマス・キャロル』と同じように、二人は「同じだけれど違う人生」を生きることになるんです。
なんていいお話なんでしょう。