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ダヴィンチ・コード

『ダ・ヴィンチ・コード』(監督:ロン・ハワード、出演:トム・ハンクス、オドレイ・トトゥ、ジャン・レノ)

 映画の公開と同時にアメリカのカトリック団体がソニーに抗議するという事件が起きました。どうして『ダ・ヴィンチ・チコード』でソニーなの?と不思議に思われることでしょうが、これは、映画の内容がカトリック信徒10億人を侮辱するものであるとして、アメリカで反中絶運動などをしている団体が配給元のソニー・ピクチャーズへのペナルティとしてソニー製品の不買運動を提唱したからです。
イエスがマグダラのマリアを妻としていて、子どもがあり、その子どもの血脈が代々伝えられて今に至る。さて、イエスの末裔の運命や・・・という物語が「けしからんヨタ話だ」だということなら、ダン・ブラウンの原作がベストセラーになった段階で「こんな小説を映画化したら許さないぞ」とアナウンスしていただいておいてほしかったとソニーの役員会では今頃みなさん頭をかかえていることでしょう。ひとごとながら、お気の毒です。
その後の報道では、ロシアやフィリピンやソウルやインドでも上映禁止運動が起きているそうです。今のうちに見ておかないと上映禁止になってしまうかも知れないから「早めに見ておこう」と映画館に走っている人もいるでしょうし、世界中のメディアが毎日『ダ・ヴィンチ・コード』の宣伝をしてくれるんですから、ソニー・ピクチャーズ的には「おいしい営業」なのかも知れません。
でも、『ダ・ヴィンチ・コード』をめぐる一連の事件は間違いなく「キリスト教のドグマはどんなふうにして成立したか」というふだんなじみのない主題に私たちの目を向けさせてくれるという功績がありました。
「イエスは人間か神か?」という問題はパウロの時代から信徒たちを悩ませてきた難問ですが、イエスの死後325年経ってから、ニカイア宗教会議で「イエスは神の子で、父なる神と同一の神性をもつ」ということが機関決定されました。でも、それからも「イエスは人間である」という教えを信じるキリスト教徒はいなくなったわけではありません。原作者のブラウンはもしかすると「『イエスは人間である』というニカイア宗教会議以前の古い教えを奉じるキリスト教徒」(どこに隠れていたんでしょうね)なのかも知れません。
だとすると、『ダ・ヴィンチ・コード』はキリストの血脈をめぐるエンターテインメントであるというにとどまらず、それ自体がキリスト伝承の「読み換え」を要求する宗教的異議申し立てでもあるということになります。これで教皇庁が狂信的なカトリック組織に『ダ・ヴィンチ・コード』上映禁止運動やソニー不買運動に黙許を与えたということにでもなると、「あれ?それって、『ダ・ヴィンチ・コード』のまんまやん」ということになります。「ヨタ話だ」と批判されればされるほど「ヨタ話」の信憑性が高まる仕掛けとは。『ダ・ヴィンチ・コード』、侮りがたし。
映画は長い原作を二時間半に手際よく圧縮してあって、謎は次から次へとハイスピードで解決されますから、「イラチ」なあなたにはぴったりです。でも、英語をしゃべるオドレ・トトゥが『アメリ』のときほど可愛くないのがちょっと残念。トム・ハンクスくんは次回出演作までに、おでこの縦じわをなんとかしておいたほうがいいと思います。

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2006年12月31日 19:25に投稿されたエントリーのページです。

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