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2004年11月 アーカイブ

2004年11月 7日

うほほいシネクラブ開設

内田樹の「うほほいシネクラブ」(ひどいタイトルだな)というコラムが讀賣新聞の「エピス」という映画専門のフリーペーパーで始まりました。
というわけで、これまでお休みしておりました「おとぼけ映画批評」にも月一で「エピス」の原稿を流用することにいたしました。

はい第一回はこれです。

『2046』(監督:ウォン・カーウァイ 出演:トニー・レオン、木村拓哉、コン・リー、フェイ・ウォン、チャン・ツィイー)
☆☆☆☆

みなさん、こんにちは。内田樹です。今月から『エピス』で映画評を担当することになりました。よろしくお願いします。
はじめにお断りを。この映画評では「あらすじ」「バックステージ情報」「監督、プロデューサー、俳優などの自作解説」には触れないということを原則としてゆきたいと思っています。そういう種類の情報については私が書かなくても、提供してくれる機会がいくらもありますからね。「じゃあ、キミは何を論じるのかね?」と当然疑問に思われるはずですが、それには「映画とそれ以外のものとの関連性」とお答えすることにしております。でも、こんな説明だけでは、何のことだかわからないですね。とりあえず始めちゃいましょう。

初回は『2046』です。何かを決定的に失った人間だけがひきずる「虚ろさ」を帯びた俳優たちをウォン・カーウァイ監督はキャスティングしたようです(たぶん、そのせいでしょう、佐田啓二と岸恵子主演の昭和40年頃の松竹映画のリメイクを見ているような既視感を覚えました。あの頃の日本人はどんなににこやかにしていても、どこか「虚ろ」でしたから)。
おや、そう言えば、『2046』の時代設定も昭和で言えば40年から44年にかけての話だな。

小津映画の中で、佐田啓二や佐分利信が戦時中の経験を決して語らないように、『2046』の登場人物たちも、自分たちがどのような種類の「喪失」を抱えているのか、それを語ることがありません。

そもそも、彼らが自身について語ろうとしても、この映画では対話はつねに「相手に理解できない外国語」で語られるからです。トニー・レオンが広東語で語りかけることばにチャン・ツィイーは北京語で答え、フェイ・ウォンが愛のことばを日本語でつぶやくのはキムタク君がそこにいないときだけです。

ことばは誰にも届かない。
けれども人々は語ることを止めず、その誰にも届かないことばを、響きのよい音調で、あるいは絞り出すように、あるいはつぶやくように語り続けます。
おそらく、聴き取って欲しい人にことばの「意味」が届かないとわかったときに、人間はいちばん美しい「音声」を発して、それを補償しようとするからでしょう。

こういう映画については「プロットは?」「主題は?」なんて、野暮なことは訊いちゃだめです。泡立つように輻輳するその声に耳を傾けているだけで悦楽的な時間が過ごせるんですから。

なんだか分らない映画についての三点間問答

鈴木晶先生からウチダへ

喉まできていて、どうしても題名を思い出せない映画があります。
教えて頂けますか。
温室(サンルーム)での会話が中心で、中に、自分の新婚の夫が、どこかの海岸で群衆に食べられてしまった(直接その場面は出てこないのですが)、という恐怖の過去の話が出てくる映画です。
なにかフロイトに関係した映画だったように思うのですが。
たしか、この映画、2回観たはずなのに、どうしても思い出せません。
う~苦しい。


ウチダから鈴木先生へ

面白そうな映画ですね。
でも残念ながら、私は映画そのものを見た記憶がありません。
変な映画のことなら何でも知っている松下正己に転送して聞いてみます。いましばらくお待ちを。

ウチダから松下正己くんへ

松下さま。ご無沙汰しております。
仲良しの鈴木晶先生から次のようなお問い合わせメールがきました。
変な映画のことなら何でも知っている松下正己に訊いてみますとご返事したところです。
これ、何ですか?


松下くんからウチダへ

内田樹様 御機嫌よう。

さて、ご質問の映画についてですが
このような内容の映画を観た記憶がありません。
観ていない映画については、私は殆ど何も語れません。
夫を海岸で食べた「群集」というのが
いわゆるサイレント・マジョリティなのかゾンビなのか
何かの象徴なのか
はたまた食人族なのかによって映画のジャンルも変わりますが
どうもそうではなく、
暗いヨーロッパの感じがあります。かといって
カニバリズム映画『サテリコン』でも
『豚小屋』や『ウイークエンド』でもないし。
類推するに
ミヒャエル・ハネケっぽいと思い
フィルモグラフィを見てみましたが、該当作なし。
もしかしたら
マルグリット・デュラスの『アガタ』あたりかな、
とも思いますが、自信はまったくありません。
こんな答えしかできなくてごめんなさい。
これからもっといっぱい映画を観て、
何でも答えられる立派な大人になれるよう頑張りたいと思います。

ウチダから鈴木先生へ

松下正己くんから次のようなメールが届きました。
彼も知らないみたいです。
さて、何だったんでしょうね?


鈴木先生からウチダへ

わざわざ松下さんまで患わせてすみませんでした。
機会があったら、御礼とお詫びを申し上げて下さい。
うーむ、ひょっとしたら、私の見た夢かも・・・
川本さんにも訊いてみます。


ウチダから鈴木先生へ

こうなるといよいよその映画が見たくなりましたね。
なんとかタイトルを発見して教えてください。

誰か知ってたら教えてくださーい!

2004年11月22日

11月はちょい不作

『華氏911』(Fahrenheit 9/11 by Micheal Moore : George W. Bush)
☆☆☆☆☆
カンヌでクストーの『沈黙の世界』以来(1956年)以来パルムドールを受賞した(タランティーノ偉い!)二度目のドキュメンタリー映画。
配給元ミラマックスの親会社ディズニーのマイケル・“ワルモノ”・アイズナーの妨害で、最初は米国内での公開が危ぶまれたが、公開されるや全米ナンバーワンヒットになった。
この映画を見たあと、なお大統領選挙にブッシュに票を入れる気になる人間はまずいないと思うが、それでもブッシュはケリーに圧勝した。ということは、もし『華氏911』が公開されていなければ、ブッシュはもっと票を取っていたということである。
ブッシュの票田である中西部では『華氏911』を上映している映画館はほとんどなかったそうである。あらま。

『テキサス・チェーンソー』(Texas Chainsaw Massacre by Marcus Nispel : Jessica Biel, R.Lee Ermey)
☆☆☆
トビー・フーパーの『悪魔のいけにえ』のリメイク。
ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』も『ドーン・オブ・ザ・デッド』でリメイクされたし、『Shall we ダンス?』(周防正行)も、『リング』(中田秀夫)も『呪怨』(清水崇)もハリウッドでリメイクされている。
もう企画が尽きたのかな。
オリジナルとの違いは、女性主人公がやたらタフなこと。
バカな男は死に、タフな女は生き残る。
なるほど。

『きょうのできごと』(行定勲監督:妻夫木聡、田中麗奈、伊藤歩、柏原収史、三浦誠己、石野敦士、松尾敏伸、池脇千鶴、山本太郎)
☆☆☆+
岩井俊二の一連の映画の助監督、『GO』でブレークした行定監督の『セカチュー』のイッコ前の作品。
キャスティングがよい。既視感のある役者は山本太郎だけ(この人、どんな映画に出てきても山本太郎だなあ)。田中麗奈はどんな映画に出ていても違和感があるが(『がんっばっていきまっしょい』からずっと。白龍の娘がこんな顔わけないでしょ)、この人の場合は「つねに場違いなひと」というのが芸風。
個人的には正道役の柏原収史がよかった。気錬会の理科系大学院生にこういう感じの子多いし。

『ビッグ・フィッシュ』(Big Fish by Tim Burton : Ewan McGregor, Albert Finny,
Jessica Lang, Helena Bonham Carter, Steve Buscemi, Dani Devito)
☆☆☆+
ティム・バートンの「脱力映画」。
『眺めのいい部屋』ではつるつるぴかぴかの美少女だったヘレナ=ボナム・カーターがシワシワの魔女役で登場。ちょっと悲しくなる。
ユアン・マクレガーがキャストされたのは、アルバート・フィニーの若い頃と酷似しているからだそうである。たしかにアルバート・フィニーの若い頃ほんとにきれいだった、そういえば。そうか、ユアンくんもそのうちああなっちゃうのか。

『アマゾン』(Fire on the Amazon by Luis Llosa : Sandra Bullock)
☆なし
『スピード』でブレークする前にサンドラ・ブロックの過激ヌードが拝見できる映画ということで、借りてみた。よほどの映画でもどこかに「よいところ」を見つけることのできる私であるが、この映画についてはそれがたいへん困難であったと申し上げなければならない。とくに主演男優(Craig Sheffer)については、彼がどうして映画俳優になれたのかよく分らなかった。サンドラ・ブロックのヌード云々は虚報。

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