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2004年3月 アーカイブ

2004年3月14日

3月13日

『ゴーストシップ』(Ghost Ship by Steve Beck: Gabriel Byrne, Julianna Margulies) ☆☆☆ 

ほんとなら☆☆であるが、「ピアノ線で人体分割」の発想の妙と、イタリアの女歌手の色っぽさで、それぞれ0.5☆加点。

『ファム・ファタール』(Femme fatale by Brian De Palma: Rebecca Romijn-Santos, Antonio Banderas, Eric Ebouaney, Edouard Montoute, Gregg Henry, Jo Prestia!)☆☆☆☆☆ 

おお、ひさしぶりの「五つ星」映画だ。
まずブライアン・デ・パルマのストーリーの洗練と巧妙に脱帽。ネタもとは『邯鄲』か『聊斎志異』か(いま「りょうさいしい」と打ったら「良妻思惟」と出てきた。なんだか切ない文字並び・・)あるいは『クリスマス・キャロル』か、とにかく「未来を見てしまったことによって、運命が変わる人間の話」。ハリウッド映画はほんとにこのストーリーパターンが好きだな。
途中で人間が「入れ替わる」という仕掛けにちょっと「デヴィッド・リンチ」が入っているかも。
二分割画面カメラもたいへんスリリング。
キャストではレベッカ・ロメイン=サントスの「人の悪さ」と、アントニオ・バンデラスの「人の善さ」のバランスが絶妙。
レベッカ・ロメイン=サントスの「サービスヌード」もふんだん(エッチな踊り付き)。
『アレックス』でモニカ・ベルッチを9分間にわたってレイプしたあの「サナダムシ」野郎 Jo ”爬虫類顔”Prestia くんもまたまた「おおお」というところに出てくる。
ブライアン・デ・パルマは「悪くて、いい女」を描かせると、まことに天下一品。

好きにしなさい

『トリック』(堤幸彦:仲間由紀恵・阿部寛・生瀬勝久)(全シリーズ踏破、2週間かかったぜい)
☆☆☆☆

「おまえたちのやっていることは、全部まるっとお見通しだ!」

いやー。これは楽しいわ。TV放映時もけっこうチェックしていたが、まとめてみるとまた一段と。仲間由紀恵の「ぜったい噛まない早口」が快適。

しかし、野際陽子もありとあらゆるものに出るなー。ウチダは『赤いダイヤ』のときは真剣に野際ファンだったんだけどね。


『ハンテッド』(The Hunted by William Friedkin; Tommy Lee Jones, Benecio Del Toro) ☆☆ 

トミー・リー・ジョーンズとベネチオ・デル・トロによる『ランボー』のリメイク・・・

ウィリアム・フリードキンは「焼きがまわった」のか、それともはじめから「焼けていた」のか。ちょっと考えさせてください。

『チャーリーズ・エンジェル:フルスロットル』(Charlie's Angels: Full throttle by McG: Cameron Diaz, Drew Barrymore, Lucy Liu) ☆☆ 

ま、好きにしなさい。


『ドリームキャッチャー』(The Dreamcathcer by Laurence Kasdan: Morgan Freeman, Thomas Jane, Jason Lee, Damian Lewis, Timothy Olyphant) ☆☆☆  

前半の1時間は☆☆☆☆、後半の1時間は☆☆。

前半の「なんだかわかんない感」が最後まで持続すれば・・・惜しい。
でも、スティーヴン・キングってだいたいそうだよね。

痔疾のひとは見ない方がいいです。

英雄

『英雄』(2002, by Zhang Yimou: Let Li, Tony Leung, Maggie Cheung, Zhang Ziyi, Donnie Yen)
☆☆☆☆

映画全体を貫くモチーフは「重力からの解放」。
この映画では「ものが下に落ちる」ということがほとんど強迫的に回避されている。

矢にしても、いくら強弓で引いたって、あれだけの距離だ、どこかで下に向いて落下を始めるはずなのに、ぐいぐい上昇して、そのあとは水平方向に飛んできて、目的地に達しても、しつこく人間や壁に刺さったりして、最後まで地面に落下することを拒んでいる。

ワイヤーワークの剣戟シーンももちろんそうだ。

ドニー・イェンとリー・リンチェイの雨の中の剣劇の場面、マギー・チャンとチャン・ツイイーが枯葉の中でくるくるまわる場面、トニー・レオンとリー・リンチェイが湖の上で飛ぶ場面、どれでも彼らはなんだか「地面に足がつくと負け」のゲームをしているように見える。

あるいは現代中国には「空中に飛び上がって、降りてこない」という図像に何かはげしい固着を感じる歴史的・文化的な理由があるのかもしれない。

「右肩上がりの経済成長」の象徴かもしれないし、「文化大革命の後遺症」かもしれない。

地獄の黙示録・director's cut

コッポラの『地獄の黙示録・完全版』をTSUTAYAから借りてきたので寝ころんで見る。

若き日のマーチン・シーンは、チャリ坊よりずっとかっこいい。

びっくりしたのは、17歳のニキビ面の水兵さん(サングラスかけてストーンズの『サティスファクション』で長い手足をひょろひょろさせて踊っていた子)の歯並びの悪さが気になってじっと見ていたら、どこか見覚えがある。
IMBDで検索したら、やっぱりローレンス・フィッシュバーンだった。
ハリソン・フォードが出ていることは知っていたけれど、モーフィアスも出てたのね。

完全版は25年前の劇場公開版よりずっとストーリーが熟していて、出来がいい。
どうして79年にこのヴァージョンを公開しなかったのか理解できない。
映画史的な影響も、社会的な影響もまるで違ったものになっていただろうに。

晩春

宴会あけの昨日はさすがに頭がパーになっていて、むずかしいことは何も考えられないので、『晩春』を見て(いったい何回目であろうか・・・)、杉村春子と笠智衆の「そりゃ、食うよ」「そうかしら」「そりゃ食うよ」「そうかしら」「食うよ」というところでげらげらと床を転げ回って笑う。
どうして、こんなに可笑しいのであろうか。

チャンネルを換えたら『寅さん』をやっていて、笠智衆がここでも「御前様」で登場していた。
笠智衆は1904年生まれであるから、『晩春』の時(1949年)には45歳である。このとき役の年齢は56歳。
『東京物語』(1952年)のときは48歳であったが、80歳にしか見えなかった(名越先生によると、老人性のパーキンソン氏患者特有の身体の震えまで演じていたそうである)。
それから40年経ってもまだ『寅さん』で80歳の役をやっているのである。
まことに稀代の名優である。
 
つねづね申し上げているように、『晩春』の曽宮周吉教授は、私の若年からのロールモデルであった。
「いつか、あんなじじいになりたい」と強く念じていたのであるが、強く念じることは実現するというお師匠さまのお言葉通り、ちゃんと娘も巣立って、晴れて一人おぼつかない手つきでリンゴの皮をむく独居老人となった。

曽宮教授と違うところは、能楽鑑賞の度が過ぎて、仕舞や謡曲までうなるようになったということと、行きつけの店が「多喜川」ではなくRe-setであるということ(ついでに愛飲するのが熱燗ではなく、冷たい白ワインであること)、あとは相変わらず原稿書きに追われ、学内でもさしたる地位になく、友人と酌み交わしてはよしなき話に興じ、若い女の子が遊びに来るといそいそとご飯を作り、ときどき麻雀をやりたくなるが相手がいないという点もまるで変わらない。

できれば死ぬ前にるんちゃんの花嫁姿を見たいけれど(ついでに「婿どの」に長説教をかましたいが)、まあ、それはそれで先方のご事情もあることだし、あまり差し出がましいことは望むまい。

そのうち『父ありき』か『戸田家の兄妹』のお父さんみたいに、「ああ、いい気分だ」と言っているうちに酔生夢死の境でころんと死ねるはずである。

小津安二郎の芸術

行きの地下鉄で佐藤忠男『小津安二郎の芸術』を読む。

年末に小津安二郎全作品DVDが届いたので、映画をみては、いろいろな人の書いた小津論の本をひもといている。
この名著を読むのは二度目。最初は石川くんに薦められて二十代の終わり頃に読んだのだから、もう大昔のことである。
佐藤の描く小津の肖像もたいへん魅力的であるが、その中にすてきな言葉があった。
昭和33年、『彼岸花』の撮影中に、小津、岩崎昶、飯田心美の鼎談が『キネマ旬報』で行われた。そのときの小津の言葉。
独特のカメラワークについて論じた中で、小津は「絶対にパンしない」と言ったあとにこう続けている。

「性に合わないんだ。ぼくの生活条件として、なんでもないことは流行に従う。重大なことは道徳に従う。芸術のことは自分に従うから、どうにもきらいなものはどうにもならないんだ。だから、これは不自然だということは百も承知で、しかもぼくは嫌いなんだ。そういうことはあるでしょう。嫌いなんだが、理屈にあわない。理屈にあわないんだが、嫌いだからやらない。こういう所からぼくの個性が出てくるので、ゆるがせにはできない。理屈にあわなくともぼくはそれをやる。」

「いやなものはいやだ」と言って芸術院会員への推薦を断ったのは私の敬愛する内田百間先生である。
その百間先生は文部省からの博士号を「いらないものはいらない」と断った師たる漱石の事績にならったのである。

というわけで「今週の名言」は天才小津安二郎の
なんでもないことは流行に従う。重大なことは道徳に従う。芸術のことは自分に従う。
に決定。

2004年3月16日

過剰なふたり

『コンフェッション』(Confession of a dangerous mind: by George Clooney: Sam Rockwell, Drew Barrymore, George Clooney, Julia Roberts) 
☆☆☆
「ゴングショー」の司会者でバカTV番組の名物プロデューサーが実はCIAの暗殺者・・・というプロットも、1950−70年代の時代の風景を点綴する手際も、カメラの使い方も、俳優の演技も、ぜんぶ「すごくソフィスティケイトされている」んだけれど、なぜかぜーんぜーん面白くない。
まったく同じキャストで監督だけ換えたら(例えばコーエン兄弟と)、めちゃくちゃ面白い映画になったと思う。
プロットは「おもしろすぎる」わけではない。
俳優は「うますぎる」ほどではない。
ジョージ・クルーニーくんの演出はたいへんにスマートではあるが、残念ながらスマート「すぎる」わけではない。
ここには、ある種の「過剰さ」が欠けている。
それを言葉でいうのはとてもむずかしい。
例えば、「節度のある映画」にしても、それは「節度の過剰」というかたちで必ずフレームを歪めてしまうものだ。
そして、私たちはそのような「過剰さ」にかならず反応する。
「過剰」というのがどういうことか知りたい人はジョン・ウォーターズの『クライ・ベイビー』か小津安二郎の『秋刀魚の味』をご覧になるといい。
映画が始まって10秒で、「それが何であるかを言葉ではいえないけれど、ここには何かが過剰だ」という印象を刻みつけられるはずである。
それがすぐれたフィルムメーカーとそうでないフィルムメーカーを分岐するものなのである。
クルーニーくんはセンスはたいへんよいのだから、さらに努力を続けるように。
 
『S.W.A.T』(S.W.A.T. by Clark Johnson: Samuel L.Jackson, Colin Farrel, Michelle Rodriguez, LL Cool J)
☆☆
サミュエル・L・ジャクソンとモーガン・フリーマンはいったい年に何本の映画に出ているんだろう?
という以外に特段の印象のない映画でした。はい。
 

2004年3月19日

パンチドランク・ベイシック・アイデンティティ

『パンチ・ドランク・ラブ』(Punch drunk love by Paul Thomas Anderson: Adam Sandler, Emily Watson, Philip Seymour Hoffman)
☆☆☆☆
ウチダごひいきのポール・トーマス・アンダーソン(『ブギー・ナイツ』、『マグノリア』)の新作。
期待に胸を膨らませて観たのだが、「期待は失望の母」(@大瀧詠一)とはよく言ったもので、期待しないでだらだら観てたら「ああ、いいなあ」と☆四つになっただろうが、私が「ボンクラ映画の未来は君のものだ」と最大の期待をよせているPTAくんの新作としては、いささか物足りなかった。
主演のアダム・サンドラーくんは『TAXI』シリーズのサミー・ナスリくんにそっくりでとってもチャーミング。
 
『閉ざされた森』(Basic by John McTiernan: John Travolta, Samuel L.Jackson, Connie Nielsen, Harry ConnickcJR)
☆☆☆☆
『ダイハード』のジョン・マクティアナン監督に、『パルプ・フィクション』のバカ二人組による大どんでん返しの密室/密林サスペンス。
なかなかオチが見えなかったが、これはメイキングによると、「全員ワルモノ」というオリジナル脚本に対して、「それじゃ観客が納得しない」というプロデューサー側の意向で、やたらに改変が加えられたためだそうである。そのせいで、何がなんだか分からないプロットとなり、ウチダ的には好みの作品に仕上がった。
ウチダ好みのハリー・コニック・ジュニアがちょい役で出演。(『コピーキャッツ』以来だな)
それにしてもサミュエル・L・ジャクソンは年間何本の映画に出演しているのであろう・・・
 
『アイデンティティ』(Identity: by James Mangold, John Cusack, Ray Liotta)
☆☆☆☆☆
今週のイチオシ。
洪水で身動きできなくなった10人の男女が、一軒のモーテルに集まり、やがて一人また一人と殺されてゆく・・・
『そして誰もいなくなった』のリメイクかしらと思って、「こういう場合は最初に殺されたやつが実は真犯人なんだよな」などと気楽に観ていたのだが、どんどん人は死んでゆくし、死体はなくなるし、集められた全員が5月10日生まれで、おまけにみんな姓がアメリカの州名・・・そして、並行して進む死刑執行停止の審理に、到着しないはずの「囚人」が到着するに及んで・・・「えええ、これはぜんぜん分からなくなったぞ。あと30分で、どうやって話を落とすんだ?」と思っていたら・・・こ、これはびっくり。(ラストのオチは読めちゃったけどね)
よくできた映画です。
それにしてもレイ・リオッタはどんな映画でもぜったいに「こういう役」だよな。
最近気がついたけれど、「画面の横からいきなり自動車が出てきて人をはねとばす」というショッカーが多いですね。
『パンチ・ドランク・ラブ』でも『ドリームキャッチャー』でも同じような絵があった。
『ジョー・ブラックによろしく』でブラピがコーヒー屋から出ていきなりトラックにはねられるあたりからはやりだしたのかなあ。
 

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